高知地方裁判所 昭和23年(行)14号 判決 1949年11月16日
原告
野老山幸風
被告
安藝町農地委員会
主文
昭和二十二年八月一日公告せられた被告が別紙目録記載の土地についてした買收計画はこれを取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
請求の趣旨
主文同旨
事実
原告訴訟代理人は、その請求の原因として、
原告は昭和二十二年九月上旬、被告が同年八月一日附で別紙目録記載の原告所有の田畑についてした買收決定通知を受取つたが、右決定は原告の亡父野老山吉太郞宛になされたものであるが、同人は昭和十二年死亡、原告においてその家督を相続し本件土地の所有権を取得し爾来今日迄これを所有している、従つて、権利主体でない亡夫に対してなされた本件買收決定は無効である、尚また本件買收決定は自作農創設特別措置法(以上自作法と称する)第三條第一項第一号によつて、原告が本件土地の不在地主であるとしてなされたものであるが原告は不在地主ではないから、右決定は違法である、即ち、原告は現在東京都警視庁に勤務中であるが、原告の本籍は安藝町穴内乙一、五四四番地である、亡父は同所に永年居住して本件土地を自作し昭和十二年死亡、原告の母は同十九年本籍地において死亡、原告の家族は昭和十七年以降昭和二十年九月末迄右住所に居住していたものであつて、原告は右本籍地を住所と定めてあるのであつて、現在職務上一時的に東京都に居所を有しているが、同所には永住の意思はない、仍つて、本件買收決定の取り消しを求めるため本訴に及んだ、と述べた。(立証省略)
被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として、被告が原告所有の本件農地に就いて買收計画を定めたことはこれを認めると、そして、本件土地の公簿上の所有名義人野老山吉太郞は昭和二十二年四月死亡し原告が相続したので買收計画書には野老山吉太郞相続人野老山幸風と記入してあり従つて、本件買收計画は原告に対してなされたものである。原告の本籍地は安藝町穴内乙一、五四四番地であるが、父吉太郞は前記日時に、母銀は昭和十九年十二月には夫々死亡し、穴内に在る家屋は他に賃貸してあつて原告家の者は誰も居住せず原告は東京都においてその家族と共に住居して警視庁に勤務している、即ち原告の住所は東京都に在つて安藝町にはなく、そして、本件田畑は原告がこれを自作しておらず小作地であることは原告も認めて争はないところであるから本件土地は自作法第三條第一項第一号所定の農地に該当するものであるから被告が同法第六條によつて本件土地に就いて買收計画を定めたのは適法であると述べた。(立証省略)
理由
被告が原告所有の本件土地に就いて自作法第六條による買收計画を定めたことは当事者間に爭がない、ところで、凡そ、同條による買收計画を定めたときは、買收すべき農地の所有者の氏名其の他を記載した書類を縱覽に供しなければならないことは同條第五項に明定するところであるが、証人山崎柳水の証言並同証言により成立を認める乙第一号証によれば本件買收計画において縱覽に供せられた書類にはその所定の縱覽期間中は、本件農地の所有者の氏名として、所有者たる原告の氏名ではなく、原告の先代の氏名が記載せられていたことが明らかであり右認定を左右すべき証拠はない、果してそうであるならば、被告は本件土地の所有者でないものを所有者なりとして本件土地の買收計画を定めたものと謂うべきであるが凡そ或る農地の所有者が何人であるかは当該農地を買收すべきか否やについて重大な関係を有することは自作法の規定上明らかであるから、前記認定の如く、本件土地の所有者を誤認してなされた本件買收計画は違法であり取り消されるべきである。
仍て爾余の爭点の判断を省略し主文の通り判決する。
(森本 安藝 谷本)
(目録省略)